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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

「八卦見じゃあるまいし、こんなことがどうして分るのです。それとも、あんた自身が、丁度この時間に、賊を逮捕して見せるとでもおっしゃるのですか」

「そうですよ。つまり、そういう結果になるのですわい」

何だか変な具合であった。まるで誇大妄想狂を相手に物を云っている感じだ。この親爺全くの気違いか、それともズバ抜けたえら物かどちらかに相違ない。

「でも、二時三十分と云えば、丁度今ですが、まさか、今すぐに犯人を捕まえることは、……」

殿村夫人が腕時計を見て、嘲るようにさし出口をする。

「今すぐに捕まえるのです。……なにしろ、わしはこの大切な白髪首をかけていますのでな」

老人の言葉は益々気違いめいて来る。

「マア、今すぐにでございますって? ホホホ……、では、あの赤蠍の賊が、この部屋にいるとでもおっしゃいますの?」

「そうです。憎むべき怪物は、今、この部屋におるのです」

老探偵はズバリと云ってのけた。彼の好々爺の表情が忽ち緊張して、その鋭い両眼は、刺す様に輝き始めた。

冗談ではなかったのだ、この妙な老人には、何かしら成算があるらしい。それにしても、あの恐るべき兇賊がこの一座の中に隠れているとは、何という突拍子もない断言であろう。