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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

丁度その騒ぎの最中に、玄関のベルが鳴って、一人の客が訪れた。取次に出た書生が、名刺を握って、何かしら勢込んで主人の居間に入って来た。見ると、その名刺には、待兼ねた「三笠龍介」の名が大きく印刷してあった。

操一氏は自ら玄関へ走り出て、名探偵を歓迎した。

名探偵! これがあの名高い名探偵なのだろうか。そこに無作法に立ちはだかっていたのは、薄汚ない半白の頭髪と鬚髯に顔を埋め、ロイド眼鏡を光らせた、みすぼらしい背広姿の老人であった。だが、操一氏は咄嗟に守の言葉を思い出して、少しも疑念を抱かなかった。守は痩っぽちのお爺さんだと云っていたが、成程人物は見かけによらぬものだと感じたばかりであった。

彼は老探偵の手を取らんばかりにして、応接間に招じ入れ、姿なき犯人の奇怪の示威運動の次第を語った。

「家中のものが見張っている目の前で、いたずらをして行くのです。しかも、曲者は煙の様に全く姿を現わさないのです。捉えようにも防ごうにも、まるで方法がないではありませんか」

「ウム、狂人か、でなければ、天才的犯罪者ですわい。犯罪を予告するなんて真似は、並々の者に出来る芸当ではありません。