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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

その時の表情が非常に恐ろしく見えたものだから、私はオヤッと思って、注意し始めたのです。すると、その次には、相手の、顔の見えない方の男が何か云ったのに答えて、あの男は(薬なんかじゃない、短刀だ)と云いました。それから少したって又(短刀で一寸だめし五分だめしだ)と、憎々しく口を枉げて云いました」

「それが先生にだけ聞えて、あすこに立っているウェーターには聞えなかったとでもおっしゃるのですか」

珠子は腹立たしげであった。

「エエ、そうなのです。私に丈け聞えた、イヤ見えたのです。私は声は聞えなくても、唇の動き方だけで、言葉が分るのです。読唇術、リップ・リーディング、あれを私知っていますのよ」

「マア、読唇術ですって?」

「エ、リップ・リーディング?」

兄妹が同時に、思わず高い声を出した。

「エエ、そうなの。マア静かにして下さい。私はずっと以前、生れつき唖で聾の小さいお嬢さんをお世話したことがありましてね。そのお嬢さんについて、聾唖学校へ行き行きしている内に、とうとう読唇術を覚え込んでしまいましたのよ。で、なければ、そのお子さんを本当にお世話出来ないのですものね」

京子が手短に説明した。