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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

何かしら本当らしくないとは感じていた。だから、悪夢にうなされているのだと極めていたのだが、では、悪夢でもなかったのか。

「間抜けめ、余計なお喋りをするんじゃねえ。折角お嬢さんが面白がっていなさる所じゃねえか。とんちき、これから無駄口を叩くと承知しねえぞ」

小男は偽探偵の一喝に遭って、一縮みに黙り込んでしまった。

「サア、お嬢さん、こちらへいらっしゃい。この先にまだまだ面白いものがあるんですよ」

グイグイと邪慳に手を引かれるままに、珠子はよろけながら、なおも竹藪の細道を辿って行ったが、そう聞いて見ると、如何にも見世物小屋の中に相違ないことには、暗闇ながら、戸外のような風のそよぎもなく、空には星も見えないのだ。さい前までは、それ故にこそ、一層夢の中の景色らしくも感じられたのだが。

轢死人は生人形と分った。これから先の面白いものというのも、どうせ似たような拵えものに極っている。だが、それだからと云って、珠子の恐怖は増しこそすれ、決して薄らぎはしなかった。人形はもう怖くはないけれど、人間が恐ろしいのだ。彼女の右手をネットリと握りしめている怪物の、計り知られぬ心が恐ろしいのだ。