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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

とき、家士の来田庄兵衛が入って来た。彼はもう五十四五になり、温厚な性質で伝七郎にとっては唯一人の味方であった。

「さあ私が代りましょう、ご苦労でござりました」そう云って彼はそこへ坐った。「なにか用事があるのじゃありませんか」「いや、御用はもう済ませてまいりました、お兄上方もみなさん御登城でござります、さあもうようございます」「じゃあ頼みます」伝七郎はほっとしながら立上った、「二千枚といってましたからね、晩までにやって置いて下さい」そして逃げるように用部屋から出ようとしたが、ふと戻って来て、「来田さん少しありませんか」と小さな声で云った、顔の赤くなるのが自分ではっきりわかった。庄兵衛は黙って頷ずき紙入れから幾干かを取出し、懐紙に包んで差出した、すべて無言だし、こちらへ眼も向けない、「済みません」伝七郎は手早く袂へ押込むと、こんどは逃げるように廊下へ出ていった。

伝七郎はまっすぐに鍛冶屋町へいった。酔った翌日はまた呑みたいものだ、それにゆうべは忠太郎の奢りだから、たまには奢り返して義理も果したいと思った。なにしろ父がくれる小遣といったら