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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

高峰の花も取れば取れるもの

雀の涙ほどのもので、酒を呑むなどいうことは夢にも及ばない、よほど呑みたいときには忠太郎の所へゆくか、庄兵衛にねだるかするより仕方がないのである。「福山藩十万石の中老の伜に、叩き大工の振舞酒を呑ませればさぞ名誉だろう」などと肚の中で父親に悪態をつくが、面と向っては眼もあげられないのだ、「そっちがそういう積りなら、こっちもそういうことになってやる、へん、おれにだって一分や五厘の意地はあるんだ」そんな風にいきまいてみるけれど、そして自分ではいっぱしひねくれる積りなのだが、生得というものはどうしようもなく、彼は依然として気の小さい、ばか正直な、善良すぎるほど善良な伝七郎でしかなかった。……鍛冶屋町の路次の入口で、彼は袂の紙包の中を検べてみた、そして思ったより多分に入っていたのだろう、思わずにやにやと笑いながら、元気に路次へ入っていった。ところが忠太はいなかった、隣りの女が、「忠さんは仕事ですよ」と教えてくれた、その筈である、彼はがっかりして路次を出たが、とたんに向うから村松銀之丞とばったり顔を見合せた。

高峰の花も取れば取れるもの

伝七郎は、初め化かされた