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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

生得は哀しき路次裏の酒

……昔いっしょにとんぼ捕りや竹馬遊びをした銀之丞が、同い年でこの出世ぶりをみせたから、伝七郎の鈍才はますます眼立つわけである。なにかというと父や兄たちはそれを指摘した、「村松をみろ、少しは銀之丞にあやかれ」「口惜しいとは思わないか」などという顔である、そういうときいつも伝七郎は恐れ入って低頭するばかりだった。だって、他にどうしようもなかったから。……

生得は哀しき路次裏の酒

それでも伝七郎は、決して僻むようなことはなかった、それどころか銀之丞に心から敬服し、彼が自分の友達だということに誇りをさえ感じていた。それに対して銀之丞がどういう態度をとるかということは、さっきの道場でもう読者諸君はよく御存じの筈である、ただ作者としては、あれが今日が初めてではなく、毎日のことだという点を付加えて置けば充分であろう、もっとも今日は少し手きびし過ぎた、銀之丞は触れてならないことに触れ、衆人の前で不必要に彼を辱しめた。だが、どうやら酒肴の支度が出来て、二人は盃のやり取りを始めたようだ、とにかく貧しい酒盛の方を見るとしよう。

「どうだ伝さん、酢は利いてるか」