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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

木像ながら閻魔の御利益

通りを足早に歩いてゆく、やがて昌林寺前へとさしかかった。

木像ながら閻魔の御利益

昌林寺という寺の前から一丁ばかりは、片方は墓場、片方は籔と杉林の淋しい道になる、俗に籔小路といって、ほんの僅かな距離だが昼間でもひっそりとした場所だ。……すたすたと急ぎ足にやって来た三枝と下僕が、ちょうど寺の門前を通り過ぎたときである、まっ暗がりの中からとびだして来た伝七郎が、いきなり下僕の持った提灯を叩き落し、忠太郎が娘へとびかかって羽交い絞めにしながら手で口を塞いだ、「泥棒、どろぼう」なんと思ったか老下僕はそう喚きながら逃げだす、伝七郎はちょっとまごついた、「泥棒」と云われようとは思わなかったから。けれども理合を説いている暇はなかった、「伝さん来てくれ、痛え痛え」と忠太郎が悲鳴をあげている、彼は三枝に手を噛まれていたのだ、「猿轡を噛ませてくれ、手拭はおれのふところにある、いや縛る方が先だ、こう暴れちゃあ始末にいかねえ、い、痛え、指が千切れちまう、早くしてくんな」「ま、待ってくれ、もうじきだ」こっちは命までもと想っている人だから、痛くしまい怖がらせまいと手加減をするのでてきぱきといかない、だいぶまごまごしたが、それでもどうやら手足を縛り猿轡を噛ませて、二人で肩へ担ぐ