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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

負けるを知らぬ人の負けよう

ようなことのないよう、そう祈るだけで満足していました、嘘も隠しもない、本当に私はそれだけで満足していたんです、だからもし村松銀之丞から妙な話さえ聞かなければ、今夜このようなあさましいことにはならずに済んだでしょう」

負けるを知らぬ人の負けよう

「こうなったらはっきり云いますが」と、伝七郎は続ける、口が下手どころか今夜の彼は、ただ人間がせっぱつまった誠心誠意をこめた場合にのみ、天の意によって表わされるように、なかなかの能弁だった、「ついこの間ですが、村松が私をさる所へ呼んで、貴女が私に好意をお持ちだと、ごめんなさい村松が云ったのですから、そして勇気をだしてやってみろと唆しかけたのです、初めは信じなかったんですが、恋に眼も昏んでいたし、ごらんのとおりの愚直者ですから、ついその気になってお父上へあんな御相談に上ったのでした、それからのいきさつはたぶん御承知でしょうから省きます、そしてわかって頂きたいことはこれだけなんです、私に少しも卑しい気持のないこと、ただ心から貴女のお仕合せを祈っていること、これだけ知って頂けば、もう私にはなんの望みもお願いもありません、え、なにか仰しゃいましたか」