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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

方がいいかも知れない、身分のこともあるし、銀之丞の云うとおりもし少しでも三枝が自分に好意をもっているとすれば、……そうだ、こいつは思い切って正面から当って砕けよう、伝七郎は歯をくいしばりながらくっとこう顔をあげた。

「よしやろう、当ってみよう忠さん」「決心がついたかい」「男は度胸だ、誰に憚ることもない、正真正銘なところでやってみる、勝敗は時の勢い、そのあとはなんとか云ったっけ、おれは憤然としてやるぞ」それじゃあ前祝いだというので、さらに呑みだしたのは覚えているがあとは夢中だった。灼けつくような渇きに眼が覚めると、自分の部屋の濡れ縁にごろ寝をしていた。びっくりしてとび起きると着物はじっとりと夜露に濡れている、あたりはまだ暗いが東の方が仄白んで、厨のあたりから薪を割る音が聞えてくる、井戸端へいって釣瓶からじかに飽きるほど呑み、もう寝るには遅いと思ったから、ついでに顔を洗った。さっぱりと眼が覚めて、初秋の未明の爽やかさが身に浸み入るようだ、云いようのないちからが体じゅうに漲ぎり満ちて、気持も常になく溌溂としている。……よし、この意気だ、半分は残っている