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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
例によって夏子のもてなしは、至れり尽せりであった。二人切で食卓を囲んで、すてきな手料理と香り高い洋酒の瓶が、幾色も幾色も並べられた。
「いくら我身が助かりたいからといって、あんなに忠実に働いたゴリラ男を殺してしまおうとするなんて、惨酷じゃありませんか」
話は当然そこへ落ちて行った。
「でも、恐怖王にして見れば、外に仕方がなかったのかも知れませんわ」
「併し、あいつはもともと、俺は恐怖王だぞと広告しているんじゃありませんか。仮令ゴリラが本当のことを白状した所で、その為に捉えられる様なへまな真似はしない筈です。助手に使う為にゴリラを救い出す必要はあったかも知れないが、何も殺すことはなかったでしょう」
「でも、恐怖王の方には、何かそうしなければならない様な、特別の事情があったのかも知れませんわ」
夏子はもう目の縁を赤くしながら、妙に賊のかたを持つのである。
「特別の事情って?」
蘭堂も少し酔っていた。酔うに従って話相手が、段々美しくなまめかしく見えて来るのであった。
「例えば、恐怖王が、一方では私達の様に普通の社交生活をしていて、その仮面をはがれては困るという様な……」