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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

「照子だ? オイ、何をつまらんことを云っているのだ。死人から電話が掛ってくる筈がないじゃないか」

「でも、是非お父さまにとおっしゃいまして、何度伺い直しても、照子よ、照子よとおっしゃるばかりでございますの」

女中は泣き声になっていた。

聞くに従って、布引氏も怪しい気持に引入れられて、若しかしたら本当に照子かも知れないと感じ始めた。

そこで、兎も角も、寝室の卓上電話に接続させて、受話器を取って見た。

「わたし、布引だが、あなたはどなた?」

「アア、お父さま! あたし照子です。お分りになりまして? 照子は生きていますのよ」

「オイ、照子! お前、本当に照子なのか。どこにいるのだ。一体どうしたというのだ」

流石の老実業家も、この驚くべき電話を受けて、しどろもどろにならないではいられなかった。

「お父さま! あたし何も云えないのです。アノ、側に人がいるんです。命じられたことの外は何も云えないのです。でないと殺されてしまいます」

「よし、分った。安心おし、きっと救い出して上げる。で、その命じられたことを云ってごらん」

布引氏は、電話が切れてから、交換局に先方の住所を調べさせることを考えて、態と何気ない体を装った。