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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
「多分僕等の探している人です」
云うなり、蘭堂はピアノの下部の塗り板のネジを廻して、何なくそれを開いた。
「アッ、京子さん、しっかりなさい」
ピアノの胴の中に、さも窮屈らしく、妙な恰好で、京子が押し込められていた。ピアノの弦の震動が失神していた彼女の神経を呼びさまし、苦痛の細いうめき声を発した。それがあの異様な笛の音となって外部に漏れたのだ。蘭堂は愛人のグッタリした身体を抱き取って、絨氈の上に横にした。
伯爵夫妻は、駈け寄って、令嬢の上にかがみ込んで、頻りにその名を呼んだ。
「アア、気がついた様だ。大江さん、京子が目をあきました」
殺されたとばかり思っていた京子が、兎も角も無事でいたのだ。両親の狂喜も無理ではない。
見るとやっぱり右手をやられている。仕合せなことには、賊が血の垂れるのを防ぐ為に、傷口を固く縛って置いてくれたので、出血も左程でなく、漸く一命をとりとめたのだ。
「オヤ、左の手にこんなものを握っていますよ。アア、あの男が持って来た手紙だ。大江さん見て下さい」
伯爵がそれを取って差出すのを、蘭堂が開封して読下した。
この手紙持参の男は僕の友人です。