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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

例の件につき是非お話しして置かねばならぬ事があるのです。僕が行けぬのでこの男を伺わせました。是非面会して事情を聞取って下さい。

蘭堂

京子さま

「畜生、僕の名前を騙ったんだな。無論こんな手紙を書いた覚はありませんよ」

蘭堂は読終った手紙を畳もうとして、何気なくその裏面を見ると、そこに赤鉛筆で大きな乱暴な文字が書きつけてあるのに気附いた。

「オヤ、これは何だろう」

読んで見ると、これこそ正真正銘の賊の置手紙だ。脅迫状だ。

京子、命は助けてやる。だが、今日限り大江蘭堂と絶交するのだ。彼と口を利いてはいけない。手紙を書くこともならぬ。若しこの命令に違背すれば、今度こそは命がないものと思え。恐怖王

「ハテナ、これは一体何のことだろう」

蘭堂はその意味を理解することが出来なかった。

「京子に絶交させて俺を苦しめる為かな。だがそんな廻りくどいことをせずとも、俺をやッつける手段は外にいくらもある筈ではないか。それとも、俺の探偵上の手腕に恐れを為して、こんなことを云うのかしら。イヤどうもそればかりではないらしい」

いくら考えても分らぬ。この理解し難き文意の裏には、何かしら恐ろしい秘密が隠されている様な気がする。