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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

「やあ、渡辺天蔵どのとは、あなただったか。かねがねよくおうわさは聞いていた。……そういわれれば、どこかで一、二度は、お見かけしたこともあるような」

その間へ、家来の熊太郎が、末席からこう話をつないだ。

「実はゆくりなくも、伊丹の城中で、同じ目的の下に入り込んでいた天蔵どのと、城内櫓下の獄舎の前で出会うたのでございました」

すると、天蔵も、

「いやまったく、偶然といおうか、神の御加護と云いましょうか、図らずも、こちらの熊太郎どのと出会ったため、あの重囲の中から、辛くも官兵衛どのの身を救出することができました。もし、拙者ひとりか、熊太郎どのお一人だったら、或いは途中で、斬り死にしていたかも知れませんな」

相顧みて、莞爾とした。

ここにおいて、事情はあらかた明らかになっているが、なお云い足すならば、黒田官兵衛の救出については、秀吉のほうでも、今日までさまざまな苦心を重ねていたものであった。

或る時は、人を派して、荒木村重に彼の身の引き渡しを乞い、或る時は、村重の信ずる僧侶を入れてそれとなく説かせてみたり、手段をつくしたが、頑として、官兵衛の身は返されない。