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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
――つぶさにそうした経路や苦心を聞いて、半兵衛は、
「熊太郎に、無理に命じたものの、成るか成らぬか、十中八、九までは、難しい望みと案じていたが――かく成就したことは、まったく神明の御加護とただありがたく思われる。……して、その以後の数日は、どうして過し、どうしてこれまで辿りついたか」
と、なおも熊太郎に向ってたずねた。
「さればです――」
と、熊太郎は功を誇るような顔もせず、畏まって、
「割りあいに、城外までは、難なく脱出しましたが、それからの方が難儀でした。諸所の木戸や柵に荒木勢が野営しているのです。ために、幾度か取り囲まれて、時には敵の刀槍の中で、ちりぢりに分れかけたりしましたが、ようやく斬り破り斬り破り逃げおわせはしたものの、その間に、官兵衛様には、左の足の膝がしらへ、一太刀うけておいでになり、跛行をひいて駈けるため、遠走りはできません。やむなく、農家を叩いて、納屋に寝たり、夜は這い出て、道ばたの堂にやすんだりして、やっと京都まで参りました」
と語り終るとすぐ、後から官兵衛自身が云い足した。
「なに、そうまでせずと、城を遠巻きにしておる織田軍の中へ逃げこめば、もっと楽に救われたろうが――城中で荒木村重からたびたび聞かされたことばによると――信長公にはこの官兵衛をいたく猜疑しておられるとか。