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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

「この御厚恩をわすれてはならんぞ」

とは、光秀自身が、つねに六人のわが子にも、甥や姪の一族のものにもいっていることばであった。

その心がけは必然に、所領地の内治や法令にもよくあらわれていた。彼は、信長の名を辱めない新興勢力下の一大名として、次々に、領民をよく悦服させていた。

おまえ見たかや

お城のにわに

きょうも桔梗の花がさく

領民はそう謡って、新しい領主の温情とその家門を祝福した。

光秀の明晰な頭脳をもってする文化の振興や新味ある政治は、到底、前に住んでいた地方豪族の施政ぶりなどとは比較にならないものであっただけに、土着民は、たちまち彼に随喜した。また風を慕って、戦わずして彼の城門に投降して来る地方武族もすくなくなかった。

酒井孫左衛門、加治見石見、四方田但馬守、萩野彦兵衛、並河掃部助など、みなその砦を捨て、部下をつれて、この春、彼の家臣となった人々である。

だが、かんじんな丹波第一の敵の嶮要――八上城だけはなおまだ頑として陥ちずにあった。

細川藤孝、織田信澄、滝川一益、丹羽五郎左衛門などの諸将が、光秀を援けて、年来、伐りくずしにかかっていたが、波多野秀治は、時に帰順したり、時には反抗したり、また忽ち、勢威を旺んにして来たり、どうしてもその防塞と敵性は抜くことができなかった。