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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

もし、毛利方に、吉川元春なく、小早川隆景もいなかったとしたら、毛利輝元の名は疾くに屠られ、中国全土はこれより数年も前に、信長の治下に収められていたにちがいない。

いま、そのあらゆる外郭陣営を破られても、なおかつ、

――中国に毛利あり

の厳然たる勢威を失わずにいるのは、実に、智勇双璧の両川が、その指揮にあればこそといっても過言ではない。

――が、必然の結果として、年ごとにその陣容が、退嬰策になってゆくのは是非もなかった。

隆景は、もっぱら山陽方面の防禦にあたり、吉川元春は、山陰道のふせぎに当っている。

これに対して、秀吉は、

「まず、鳥取の城を」

と、奪取にかかった。

そう意志して、行動にかかり出すまでには、かなり長い時間があった。そのあいだが、秀吉の戦いなのである。

いざと、攻めにかかるときは、彼としてはもう仕上げを成すようなものだった。

数ヵ月前から、彼の命をうけた黒田官兵衛は、若狭方面へ潜行して、その船舶を買い占め、鳥取地方に散在している食糧という食糧は、あらゆる手段をつくして他へ運漕させてしまった。

また、吉川元春が、そこの味方へ、粮米を積んでは、海上から輸送する途のあることを知って、沿海洋上に、船隊を配備して、それをも完全に封鎖してしまった。