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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
と、侍側の腹心たちは、ようやく覚り得たのであった。
日ごろ、信長が手もとに蒐めている甲州の近状やら、こんどの使者の言などを綜合して、もう一つ、信長をして、甲州の亡兆を確信させたものは、武田勝頼が、この夏の七月以来、父祖代々の住居である躑躅ヶ崎の居館のほかに、「御新府」と称する新城を、甲州韮崎の辺りに築いて、もうそこへ引き移っているという事実であった。
信長は、そのことを指摘して、
「――信玄はやはり信玄であった。彼は、その存生中に、天下へこう云っていた。われ一代のうちは、甲州四郡の内に、決して、城郭は構えず、濠一重の館にて結構、事は足るなりと。……いま、勝頼の代になって、そこを引き移り、新城に拠ったのは、すでに父信玄の自信を失ったからであろう」
ともいった。
書庫のうちから、一面の城絵図を取り出させて、彼は、侍側の腹心たちへ、
「それを展げてみよ」
と、命じた。
味方の諜者が、苦心して写しとって来た甲府の躑躅ヶ崎の絵図面である。これを世上一般では甲館と称したり、お館とよんだり、また躑躅ヶ崎城ともいっているが、決して城造りではなく、平凡平坦な土地に、水濠ひと重廻らした大きな邸宅にすぎないのである。