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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
安土の城内で度々見かけていたし、また宣教師から薦めたものということも知っていたからである。
けれど、信長に従いて、一歩室内へ入ると、思わず、ああという声が出た。ここは安土の内かと疑った。
大きな部屋と小さい部屋と、二つがひと間になっている。あわせて約百坪ほどな広さはあろう。その壁、その天井、装飾、床、敷物にいたるまでことごとくが、異国の色彩と調度品で彩られていた。
「その床几へ倚って休むがいい」
信長は、椅子をさして、床几と称んだ。美わしい天鵞絨と密陀塗のような塗料をもって造られてある。
秀吉は、観るものに、眼が忙しかった。
次室と広間との境には、裾長やかな帳が一方へ絞られてあり、それは天竺織というか、欧羅巴のゴブラン織というものか、秀吉すら初めて見るものだった。
呂宋、交趾、安南あたりの舶載品らしい陶器、武器、家具の類から、印度とかペルシャなどから齎した物らしい鉱石の塊や、仏像、絵革、聖多黙縞、それから南蛮船の模型だの、金銀の細工品だの、自鳴鐘だの――と数えて行ったら限りもないほどである。
その間にも、しきりと鼻を襲ってくるのは、まだかつて日本の上では嗅いだことのない執拗な香料のにおいであった。