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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

まずそれだけこの安土は、平和の余裕綽々たりで、四民を安からしめておるわれらの寸功もありといえましょうか。われら戦陣に在る身では、晨にはきょう死ぬかと思い、夕べとなれば明日はとちかい、明けても暮れても、慾といえば死に花を如何にとしか考えられぬ者にとっては、またなき耳の楽しみ、腸の薬でござる。来年はまた一、二度出て参りたいもの。――今朝は立ち際で甚だ落着かんが、次の出府の機にはぜひゆるゆるとおはなしいたそう。……あははは。きょうはどうも、失礼ばかりで」

これは、間もなく、秀吉が、蘭丸とともに席を立って別れる際にいった世辞である。これこそは、ほんとの世辞であった。

秀吉の行装一列が、まばゆい朝日の下を、桑実寺の門前町から流れ出てゆく時、使者の蘭丸もまた安土の城門へむかって帰っていたが、何ぞ知らん、この地上におけるこう二人の相識は、この時が終りだった。誰か、この朝から半年後の本能寺の変を予知することができようか。

京都

秀吉は京都に一泊した。

京都。――京都のすがたは実に一変した。

わずか十年前の京都を知っている者はみなそういう。二十年、三十年前の京都を見ている人々はなおのこと、隔世の感なきを得ないという。