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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

れ、治乱久しいものであった。

(――今の京都は、晴れた日の富士のようだ)

秀吉は、洛中に馬を駐めるたびに、ここ二、三年は、いつも同じ感激を抱く。

そして、

(これは、何に依って来たものか)

と、考える。

雲そのものの変化は問題ではない。富士そのものの実存だけが動かない事実である。

けれどその快晴を齎したものは、なんといっても自分の主人信長の力だったと思う。信長がなかったらなお乱雲晦冥の下に、多くの四民は、さる堂上の公卿が日記にも書いているように、

――如何に成りゆく世にやあらん。

と、恟々、安き思いもなく、きょうを送っていなければならなかったろう。

それが、今はどうか。

皇居をめぐる山紫水明のひかりといい、町屋町屋の輝きといい、そこに生業いし、そこに楽しみ、そこに安堵しきっている市民といい、つい一昔前の、室町幕府の治下には、まったく見られなかったものが盈ちあふれているではないか。

誰よりも信長をよく知りぬいている秀吉は、また信長の理想を今眼で見た心地がした。兵馬倥偬の中に、武人として、伊勢神宮を修理したり、禁裡の築土の荒れたのをなげいて、御料を献じたりしていた人に、信長の父信秀がある。