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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

「いえ、大ありです。……場所が場所、人目もあるので、さきほどから不作法のみいたしておりますが、そちらにおいで遊ばすのは、播磨の小寺政職様の御家臣、官兵衛孝高様でございましょう」

「なにッ」

天蔵が、刀をよせて、眼からくわっと殺意を放つと、新七は、初めて跳びあがるばかり驚いて、官兵衛の夜具のすその方へ逃げまわりながら、

「お、おゆるし下さい。い、いけなかったら、もう、な、なにも申しません」

と平伏したまま、ふるえ抜いていた。

「いや、斬りはしない」

と天蔵は、無意識に出た自分の身構えを、自分で笑い消しながら、

「どうしてそれを知っているのか」

と、穏やかに訊ねた。

新七はしばらく口の渇きに口もきけない顔つきだったが、やがて横を向くと、懐中をひらいて、肌の奥から一通の書面をやっと取り出した。

封をひらいて、読み下していた官兵衛の面には、驚きと、涙とが、交錯していた。

黒田家の臣、母里太兵衛、栗山善助、井上九郎の三名が連署の書面だったのである。

書面の内には――

殿、伊丹の城中に、御幽囚をうけて以来、われわれ三名、いかにしても、お救い申しあげんものと、早くから城下の一商人銀屋の奥にかくまわれ、機を伺うこと半歳、ついに目的を達して、城中のさる者に賄賂を送り、村重誕生祝いの夜、城内より放火させ、お身近まで忍び入りましたところ