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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

「方丈へ踏みこんでみろ」

関十郎が云った。

ことばの下に、土足のままの兵たちが、廻廊を左右に駈け出そうとしたとき、

「誰だッ」

と、強い声を響かせて、紙燭を持った一僧が、内陣柱の蔭からこなたへ歩いて来た。

奉行人の中の織田九郎次が、ずかずかと此方からも歩み寄って、

「おう、そちは先日、挨拶に出た勧心とかいう者だな」

勧心はかくべつ驚きもしなかった。静かに、紙燭を下に置いて、平伏した。

「これは、中将様のお旗本衆でございましたか。寺を訪うひとには、おのずから礼もあり、あれに訪鉦も備えてあるに、本堂の上まで、土足でみだれ入るお客は、さしずめ夜盗か、血まようた落人衆かと危ぶみ、わざと、失礼いたしました。おゆるしのほどを」

「坊主、その方は先日も、無用なことばのみ吐いて、中将信忠卿のお使いを怒らせたが、また今日も、われらをわざと腹立たすつもりか。それでは大きな損であろうが」

「お使いのお旨に、正直なお答えを仕るのほか、まだ自身の損得など、考えたこともございません」

「おまえはそれでよかろうが、師の快川国師にとって不利だろう。快川のほかにも、一山にはまだ、たくさんな長老、衆僧、稚子、雲水などいるだろうに」