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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

決して、信玄公の御子として、あなたが不肖な子というわけではない)

そう慰めているのを見ても、彼はその自然に帰してゆく時勢に反抗する理由もないし、また盲目でもないことは明瞭である。

にも関わらず、彼が、求めて死についたのは凡人の眼にこそ、驚嘆されたり、異なことのように映るが、彼自身は、元来、生死の別に、さしたる区別を持っていないし、死中生有り、生中生無し。極めて自然な行為だったにちがいないのである。

しかもその自然な行為のうちには、故信玄の恩顧に対する厚い情誼もあったし、平常、禅林の堕落に対して訓えたい気もちもあったに相違ない。しかも、その生命は枯化するなく、肉体のないいのちも、幾世にわたって、思うところの動きをなしうるのであるから、むしろ欣然として、大火焔の裡に微笑をたたえていただろうと思われる。

さて。

世変転化は、落花と倶に行く春の移りも早く、甲州の山野は信長の領下に染められ、右府信長の征旅は日程のとおりすすんだ。

三月十日。高遠城着。

同月十九日。諏訪入陣。同時に、軍政発令。

二十日。木曾義昌来謁。義昌に旧領筑摩郡に安曇を与う。

同日。穴山梅雪参礼。