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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
(明智家にとって、なくてならぬお人)
と、その重要な老職の位置と人がらとを、みな矛盾なく尊敬していた。
信長の本陣法養寺だけでは、宿舎の割当てがつかないため、一部の将は、諏訪の町家に分宿していた。
明智の一隊は、ここの旧い味噌問屋に屯し、兵も将も、数日来の戦労から解かれている今日であった。
主の息子らしいのが来て、留守居の斎藤利三へいう。
「御家老さま。お風呂をお召しなさいませぬか。お士衆、足軽衆まで、はや夕餉の兵糧もおすみになりましたが」
「いやまだ、殿のお帰りもないうちは」
「殿様には、だいぶ晩ういらせられますな」
「きょうはの、御本陣におかれては、戦勝の大宴じゃ。殿にも、あまり参れぬ御酒をたんと戴いて、めでたさのあまり、酔を過しておらるるものとみゆる」
「では、お夕餉など、先へおすましなされては」
「いやいや、お戻りを見ぬうちは、食事も摂りとうない。……したが、折角、引き留めたお客には気のどくじゃ。客人だけを、湯殿へ案内してくれぬか」
「昼のうちお見えなされた旅の画師でございますか」
「そうじゃ。あれに蹲まって、退屈そうに、独り牡丹畑の牡丹を見ておる。声をかけてやってくれ」