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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

彼のからだの汗が肌に冷えて来たころになって、ようやく小姓衆は追いついて来た。信長は愉快そうに笑って、

「遅いぞ、遅いぞ。もし戦場であったら、汝らは、今日、またとなき大将首を取り逃がしたであろう」

と、戯れた。

すると小姓の一人、湯浅甚介が、

「ですから、以後は、わたくしども小姓組の厩にも、名馬を多くお備えおき下さいませ」

と、臆面なくいった。

その云い分が気にかなったとみえて、信長は、

「よしよし。申し出た順に、まずこの馬は、甚介にくれる。乗り負けするな」

と、すぐ鞍を降りて、手ずから馬の口輪を甚介に渡した。

甚介も、朋輩も、眼をまろくした。そこへ、厩中間の虎若、藤九郎、弥六、小熊、彦一などが大汗かいて駈けつけて来る。

ほどなく蘭丸も追いつき、その他の近習も寄って来た。

徳川家の士が、

「近くに、お茶屋の設けもございますゆえ、御休息遊ばして」

と、導いてゆく。

そこまで、信長は歩いた。

「汗におよごれの御容子。お湯殿でおぬぐい遊ばして、御服を召しかえられますように」

「風呂の用意もあるか」

「日中はおおかた御不用とはぞんじましたが、いつどこにても、お汗を洗うほどな設備はいたしおきました」