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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

そしていうには、

「鍛冶鋏がありませんか。鍛冶鋏で矢をまっ直ぐに挟んで、一気にお抜き取りください」

といった。

これには、いわれた方が、やや顔の色を失ったが、彦七は、貧血も起さなかった。

この剛気を見ていた浅野長政は、秀吉に、

「ぜひ」

と、懇願して、助命を乞い、後に自分の家臣とした。

うら若い女性にも、まだ親の膝を離れたばかりな一少年にも、これくらいな気魄があるとすれば――三木一城は取るに足らない小城としても――これは容易に陥ちるわけはない。

秀吉は、事々に驚異した。――一致した精神力の強さといっても、よもこれほどまでとは今日まで考えていなかった。

――こう城兵側の意気だけを語ると、いかにも寄手は、ただ受け身に、虚を衝かれてばかりいたようだが、秀吉の麾下にも、彼に劣らぬ若者はむらがっている。なんで、ひとり三木勢にばかり気を吐かせておこう。

小姓組にある脇坂隼人は、当年十六。ここの陣中で、或る折秀吉が、

「たれか、この母衣に望み手はないか。欲しくば与えるぞ」

と、一張の見事な赤い母衣を示して、諸士を見まわした。

金糸で山みち模様を縫い、赤地に白い輪交いが染め出されている。