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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

――と、一夜、めずらしく月の冴えた宵、

「おゆう様。お召しです」

小姓のひとりが、秀吉の使いとして、小屋をさしのぞき、

「こよいお出立の用意をあそばして、半兵衛様のお墓のある山の上までお越しあれ――との仰せでした。……ええ、すぐにです」

と伝えて、使いの小姓も、先へ行ってしまった。

身支度といっても、かねて旅包みとしてある物のほかは何もない。亡兄の遺臣栗原熊太郎と、ほか二人ほど連れて、おゆうはやがて、墓山へ上って行った。

草も木も枯れて、山路のながめは、落莫たるものだったが、その夜は、霜でもおりているように、月の光が白かった。

黒い人影が、六ツ七ツ、秀吉のまわりに佇んでいる。近習とみえ、おゆうの来たことを告げていた。中に、官兵衛孝高らしい影も見えたが、おゆうがそこへ行き着いた時は、もう辺りに見えなかった。

「おう、ゆうか。あれ以来、つい軍務に忙しくて、朝夕訪れもしてやらなかったが、……山もめっきり寒くなって来たし――心細く思うていたろう」

秀吉はやさしい。総じて誰にでも女にはやさしい秀吉であるが、この際、やさしくいわれることは、却って、情けでない気がした。