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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

目ざましき織田勢の働き振りに較べて、何となくわれわれの陣所の奮わぬのも致しかたない」

「――が、そのうちには、柵外へ駈け出よとの御命令が出ましょう。その時こそ、おくれをお取り遊ばすな」

「申すまでもないこと。そのときこそは」

兄弟は、柵の出入口を取って、人数を押しつめ、ひそかに山上の金采を見まもっていた。

果たして、甲軍全体をおおう敗色の濃いものを見ると、信長は急に柵外への突出を命令し、家康もまた全麾下へ、

「出よッ!」

と、進撃を命じた。

待機していた大久保兄弟は、

「今だぞ」

「武士の生きがいは」

と、まるで加茂競馬の先頭でも争うように、柵の口から、二騎、真っ先に駈け出した。

「やわ、主君におくるべき」

郎党たちも、堰を切った怒濤の相を見せて、曠野へ躍り出た。

石川数正、榊原康政、平岩親吉、本多忠勝――などの部隊も、喊声をあげて、甲軍の左翼へ襲いかかった。

織田の軍勢は、もとよりそれに数倍している。羽柴秀吉や柴田勝家は、先に遠く西方から迂回していたし、今しも柵の内の守勢から、一転、設楽ヶ原全面へかけて、潮のような攻勢へ転じた諸部隊の上には、佐々内蔵介、前田又左衛門、福富九郎左衛門、野々村三十郎、丹羽五郎左衛門などの旗じるし、離々翩翻と揉み立てられていた。