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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
と、令を伝えて行った。
「お床几を。お床几を」
「いや、お褥のほうを」
信長のまわりから、近習がしきりに噪いでいる。蝉時雨もはたと止むばかりだった。当の信長は、馬頭観音堂の濡れ縁に病葉や塵も払わず腰かけて、ひとりの小姓に金扇で風を送らせていた。
――が、すぐに、夏木立をとおして来る涼風に、汗のひくのを覚えて、
「もう、よい」
と、小姓の手から金扇を取り、それを掌にたたみ込むと、
「忠三郎、忠三郎」
と、小姓組のうちの蒲生忠三郎を呼び、
「その辺に、郷民たちがうずくまっていたようだ。郷民のうちの年老ったものか、名主を呼んで来い」
と、命じた。
蒲生忠三郎氏郷も、ことしもう二十歳になっていた。何事か主君の意はわからなかったが、はいッと、かいがいしく答えて駈け出して行った。
信長は、また、
「小左衛門。――岐阜を出る折にいいつけておいた木綿は、荷駄へつけて来たか」
と、たずね、
「その木綿をこれへ積め」
と、いいつけた。
西尾小左衛門は、部下を連れて、荷駄方から木綿の荷を受け取り、梱を解いて、四、五十端の布を、信長のわきへ積みかさねた。
「……何の御用意か※(疑問符感嘆符、1-8-77)」