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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
松の朽葉は掃かれ、柳の根がたには、水が洒いであった。これを見るも、彼が途上の楽しみの一つらしかった。
道はなるべく嶮にし、河は必要のほかこれに架けず、どこにも彼処にも関所をおいて、深く守っているのが、国々、群雄の割拠の相だった。
信玄の軍国政治などもそれだった。
浅井、朝倉もすべてそうだった。
ひとり信長だけは、その正反対を行っている。彼の領下に、関所はないといっていい。一国、二国、三国と領地を拡げてゆくたびに、そこらの関所は悉く撤廃してしまい、橋を架け、道路をひらき、そして自己を中心とする文化の放射線を外へ外へ向けて行った。
三間道路の開通は、その先駆をなしてゆく。そして、入国税とか橋税とか渡船税とか、文化の交流を邪げるものは、一時の犠牲をしのいでもみな廃した。
こんどの上洛では、特に道をかえて勢田へかかった。それは夏の初めに、彼が設計して着手させておいた勢田の長橋の工事が落成したとあるので、
「一見しておこう」
と、いう目的のためであった。
ここも乱のあるたび、幾多の攻防戦をくり返した要害の地で、その都度、往来の困難を極めて来たところだが、いま彼の前には、橋の幅二十四尺、長さ百八十間、双欄を通して、欄の袂には、大きな擬宝珠の太柱を建てた唐橋式の偉観をもって、新しき天下の大道――また文化の動脈となって