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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

「よく描いてある。これは、手許にある軍図などとは較べものにならぬほど精密な。――蘭丸」

「はい」

「どこからこのような緻密な絵図を、早速にとり寄せて参ったのか」

「母の禅尼が、さる寺院の秘庫にあるのを、前より知っておりましたとかで」

彼の母というのは、妙光尼といって、いうまでもなく、織田家の忠臣森三左衛門可成の後家である。

六人の子があった。うち五人は男子である。蘭丸はその三男であるが、ほかの子もみな、信長の家中にひきとられて、各※(二の字点、1-2-22)、寵用されている。

ここの小姓の群れのうちには、蘭丸の下のふたりの兄弟が交じっていた。坊丸と力丸がそれである。

(あまり似ていない)

たれにもいわれた。

坊丸、力丸が凡児なわけではなく、蘭丸があまりに立ち優っているのである。かれを寵愛してやまない信長の眼ばかりでなく、たれが見ても、蘭丸の聡明は衆をしのいでいた。童形でこそあれ、帷幕の諸星、側近の家士のうちに置いて、彼が小さく見えることは決してなかった。

「なに、妙光尼の手から? ……」

と、信長はふと、いつにない眼で蘭丸を凝視した。

「そちの母は、仏者のことゆえ、諸院と往来あるは当りまえじゃが、信長を忌み呪う門徒の諜者などに騙かられぬよう……女じゃ、そちからそっと折を見て戒めておいたがよいぞ」