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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
座に、酒気がないからである。同時に、
(筑前に、からかわれたな)
と、思った。
「ここへ寄れ、惟任」
信長は、彼のいんぎんな挨拶などさし措いて、いかにも心やすげに招いた。――絵図のそばにである。
光秀は、おそるおそるにじり寄って、
「はや、新城の御創案、御他念もございませぬな」
と、あいそをいった。
世辞のいえない光秀である。この程度のことをいっても、自分で、
(追従ではないだろうか)
と、省みてみたりする性だった。
信長は空想家である。何者にも劣らない実行力を持つ空想家であった。
「どうじゃ、湖に臨むこの山一帯を城地として」
彼のあたまのうちには、もう城廓の結構から規模ことごとく設計されているもののようである。
指をもって、
「ここから、この辺まで、かようにして」
と、線をひいて見せながら、
「山の下、城をめぐって屋敷町を割りあて、町家筋は、日本のいずこにもないような整然たる町をつくる」
と、つぶやき、また、
「この築城には、思いきって、信長の擁する財力を傾けるつもりである。天下の群雄を駕御するに足る偉観をこれに持たしめねばならん。贅にはあらねど、天下無比の大観たり堅城たり、あらゆる美と質と威とをもって築きあげたい」