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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
――いや、蘭丸に赤面させないように、苦心をしたつもりなのである。
もし、明らさまに、
(天守閣のことや、築城の知識は、みな自分が、宿直のつれづれに、蘭丸へはなしたことで、それを蘭丸自身の創意のように、殿へ御献策したなどとは、まことに片腹いたいことです)
と、いったら、どんなに蘭丸が赤面するか、また信長が苦りきるか。――そういう不快は避けるのが自分のためとも思って――人の感能を見ぬくに敏い彼だけに、婉曲に功を蘭丸へ贈ったのである。
ところが結果は、彼の考えていたのとは、まるで逆なものになって酬われた。いまさらこの童形の大人の意地わるさに背を寒うせずにいられなかった。
信長は、彼の窮しきったすがたを見て、ほぼ彼の心のうちも、察してくれたらしい。
突然、一笑を放って云った。
「惟任にも似げない小心。そのような儀、いずれでもよい。要は天守閣の絵図、墨縄の資料など、そちの手もとにあるのか、ないのか」
「実は、光秀の手もとに、少々ばかりはござりますが、それをもって足るほどには……」
「あらばよし。信長にしばらく貸しておけ」
「承知つかまつりました。すぐ取り寄せて、お手もとまで差出します」