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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

の朝陽を横ぎっていた。

主君の使者、いうまでもなく上使である。

衣服をあらため、礼を正し、つつしんで旨をうけたこと、当然であろう。

吉事か? 凶か?

それは、菜園にのこされた老母と寧子だけの杞憂にすぎない。

あらかじめ、上使の内容は、前の夜にでも、秀吉へは、そっと齎されていたらしいのである。なぜならば正使として来た前田又左衛門利家とは、むかしから刎頸の友ではあるし、ここ月余にわたる主君の勘気にたいしても、秀吉のために、彼がもっとも取り做していたといわれるし、心配しぬいていたことも事実である。

「――では」

と事終って、使者、秀吉、肩をならべて、客書院からいま出て来た。

主君の代理という厳めしさをとりのぞくと、又左衛門は、日頃の友にかえって、

「よいのか、筑前」

「なにが」

「お支度は」

「このままで苦しゅうないが、まあ待て。茶なと一つ、別室で」

と、誘って、共に坐し、

「彦右衛門、彦右衛門」

と、呼ぶ。

蜂須賀彦右衛門が、それへ来て用向きをうかがうと、

「にわかに、安土へ参る。又左衛門に伴われてじゃ。――留守をたのむぞ」

「おこころ安う……」

「そちさえおれば、安心しておる。