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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

「まずまずさしずめ、播磨一州を取って吉報を知らせい。海外の夢は当分これをもって慰めておるがよい」

と、手にしていた一面の扇子を投げて餞別に与えた。

金地に日の丸。その半面は、豪壮な彩具と太い線で、朝鮮、明国、呂宋、暹羅などにわたる亜細亜の沿海と大陸の地図が画いてあった。

「これは、何よりな」

と、秀吉はすぐそれをもって襟を煽いだ。

彼の軍勢は、城下に留めてある。意気揚々、秀吉は宿営に帰り、すぐ竹中半兵衛に、君命をつたえ、半兵衛は直ちに、長浜の留守へ向けて、飛脚をとばした。

留守の蜂須賀彦右衛門は、夜をかけて、さらに一軍をひきいて参加した。そのまに、安土城から諸方の将に対しても、

羽柴筑前を総大将とし、中国入りを命ぜらる。協力加役、紛議ある勿れ。

と、発表され、飛札は廻った。

彦右衛門が、着いた朝、宿営の一室をのぞくと、秀吉はひとりで足の三里に灸をすえていた。

「御出陣に際し、よいお心がけ」

彦右衛門がいうと、秀吉は、

「まだ、背にも六つほど、幼少のときからの灸の痕がある。すえてくれい」

と、いって、やがて熱さに、歯がみしながら、

「どうも、灸は熱いので、あまり好かぬが、これをやらぬと、母上がお案じになる。