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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

いずれが、将来を把握するほん物か。――観えないのである。混沌たる動揺をなすばかりで、方向を決し得ないのだ。

ここにも「魚に河は見えない」その奔流の中を、ただ迷いに迷う群魚が、押し流れている実状だった。

ただ、この際、はっきりしていることは、一朝、毛利に優勢な旗風がふけば、群魚はこぞって毛利方の岸へ寄り、織田家に勝色があがれば、招かずして、織田家に来るという――それだけは、結果として確実だといえる。

こういう測り難い明暗と、去就に迷っている中国へ、秀吉の兵馬は天正五年十月二十三日以降、西へ、西へ。

続々と西下して行ったのである。

任や重し!

馬上、金瓢の下、かぶとの眉びさしに、陰って見える秀吉の眉にも、こんどは少し、難しい顔つきが見られた。年齢、このとき四十二。

口も、あまりきかない。大きくへの字にむすんだままである。馬は、着実に歩みつづける。砂塵は全軍をおおう。

「征くのだ。中国へ」

あらためて、時々、そう思う。

秀吉のことだ。気にもかけていまいが、こんど安土を立つに際して、前田又左衛門利家とか、丹羽五郎左衛門長秀とか、堀久太郎秀政とか、長谷川宗仁といったような人々は、