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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
軍略はただ秀吉の胸三寸にあるのみ――と、広言を吐きおった」
と、いうのである。
もちろんこれは根もない嘘で、自己の寝反りを理由づけるための捏造に過ぎない。――しかも、彼らは、その悪宣伝をさらに拡大して、安土の信長へも、書を飛ばし、
筑前どの、諸政横逆、御味方にて、恨みをふくむ者多し。右大臣家(織田)にたいし奉り、疎意抱くにあらねど、当家も三木城にたてこもり、羽柴どのの手を離れて、善戦独歩の覚悟相定め申し候。
というような、極めて悪性な讒言と、偽装に腐心し、そのまに、毛利家の軍事顧問を入れ、城郭の濠を深め、塀を高くしていた。
「ひどい男もあるものだな」
秀吉は、何を聞いても、一笑に附していた。そして官兵衛、半兵衛の両参謀のすすめに従って、三月初旬、その本陣を、加古川から書写山のうえに移した。
そのとき、意外な報道が、上方から聞えて来た。
越後の上杉謙信が、死んだといううわさなのである。
(出師の準備中に)
と、いう説や、
(いや、すでに春日山を発し、陣中で)
ともいわれているし、また、
(平生、大酒家であったため、卒中で仆れたことは確かである)
と、常識的なうわさもあり、そうかと思うと、春日山城内で、厠にゆくところを、刺客のために殺された――などと強いて奇説を附会する者もあった。