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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
と、上月城のほうを途上から振向いた。
重茲とは――秀吉の家中亀井重茲のことである。一昨夜、秀吉の旨をうけて、重茲は単身、上月城へ使いに赴いていたのだった。
(首尾よく、敵の囲みの中を晦まして、城中へ行き着いたか。どうか?)
それも案じられたし、また、
(山中鹿之介らの尼子一党が、どう覚悟をさだめたか?)
も、秀吉には、頻りと心懸りになっていた。
秀吉は、重茲を城中へやって、作戦の方針が一変するにいたった事情を知らせ、
(死中に活を求めるの大決心をもって、城中から突出し、われらと合体してはどうか。明一日、滞陣して待つ)
と云い送ったのであった。
そしてきのうは一日、心待ちに窺っていたが、城中の兵は、動きもせず、またそれを囲む毛利の大軍にも、何の異変が見えないため――ついに諦めて、高倉山を去ったのであった。
三日月
上月城はいま、絶望の底にあった。
「守るも死、出るも死」
さすが不撓不屈な山中鹿之介も、茫然、策を知らなかった。
秀吉の使い、亀井重茲から、その余儀なきにいたった事情は、つぶさに聞きとった。
「……誰をか恨まん。ただ天のみです」
鹿之介は、使いに云った。