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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

またその公卿たちへは、彼は多くの金品を贈った。兵馬倥偬の世にかえりみられず、この名誉ある権門たちが、ひどく物に貧しく、その貧しさにいじけて、すこしも、君側の朝臣であり輔弼の直臣であるという、高い気凛も誇りも失っているのを、あわれに感じたからである。

金品ばかりでなく、彼はこのなかに、自己の気魄を輸血する気をもっていた。さきに彼は、朝廷の恩命があっても拝辞したが、こんどはすすんで参議に任官し、従三位に叙せられた。

また、内奏をとげて、南都の東大寺に秘蔵伝来されている蘭奢待の名香を截るおゆるしをうけた。

この香木は聖武天皇の御代、中国から渡来したもので、正倉院に封じられて、勅許がなければ、観ることすらゆるされないものだった。

蘭奢待。

この文字のなかに、東、大、寺の三字がかくしてある。主上からこれをいただいた者は、足利義政以後、信長だけであった。

――が、これを拝受するには、実に壮大鄭重な儀式がある。

勅使、南都の大衆、ことごとく式に列し、信長自身、拝受に出、当日の奉行役としては、塙九郎右衛門、荒木摂津守、武井夕菴、そのほか柴田、丹羽、佐久間、蜂屋兵庫守など――何しても、その行装の壮観、式の厳かなことは、仰山ともいえるほどだった。