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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
そう固く決められたがさいご、決して、お心を曲げないので閉口いたす。ところで何とも……貴殿にはお気のどくに堪えんが、拙者の手におあずかり申している誓紙はまだ仮条約、御朱印のいただけぬ限りは如何ともいたしようがござらぬ。お手許へ御返却申せば、何とぞ、これ限り手断れとおあきらめ下されて、明朝にでも匆々御帰国あるように」
と、かねて預かっていた誓紙を取り出して、直家へ返した。
――が、直家は、凝然と高燈台の火色を見つめたまま、それを手に収めることすら忘れているようだった。
「…………」
秀吉も、気の毒そうに、口をつぐんでいた。直家の黙考していることはかなり長かった。
「いや」
ふいに、直家は、沈黙を破って云い出したのである。しかも慇懃、両手をつかえて――。
「あらためて、お願いする。もう一応の御尽力をあおぎたい。ぜひ、信長公へのおとりなしのほどを」
こんどは心底から降伏するの態度であった。――それまでは黒田官兵衛から無理に説かせて招降したかたちであったが。
秀吉は、大きくうなずいて、
「よろしゅうござる。それほどまで、織田家へ御信頼なれば」
と、ひきうけた。
およそ十日以上も、直家は桑実寺に逗留したまま沙汰を待っていた。