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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

すこし気に入ると、寵愛の偏する傾きは誰に対しても見せる信長であるが、その中でも、村重の武勇は、わけて信長に認められていた。今日までも、信長は人一倍、村重を愛していたといえる。

もともと村重は、何の勢力もない一介の武人に過ぎない。その器を用いて、帷幕の一員に加え、股肱の驍将に列しるなど、信長としては、最大な待遇を与えて来たものである。

わけて、秀吉の副将として、中国経略の大事に参画させてもいるのに、その信頼を裏切られた信長の気持はどんなであろうか――秀吉は思いやられるのであった。

「いや、自分にも、一半の責任はある」

秀吉は、安土へ急ぎながら、己れをも責めていた。

自分の副将であり、また、日頃から私交も浅くない村重が、こんな馬鹿を仕出来すまで、それを知らなかったとあっては――知らなかっただけではすまないと――自責するのであった。

「於蘭どの」

「はい」

「あなたは何か聞いていないか」

「荒木どのの変心についてですか」

「むむ。何が不平で、信長公に弓をひく気になどなったやら。その原因を」

長途なので、一気に馬を鞭打てば馬がつぶれる。秀吉は、平均に軽走させながら、同じ歩調でついて来る馬上の蘭丸をかえりみて話した。