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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
「どういたしたものかな。筑前、そちの所存は」
これが信長の初めに出したことばであった。これを見ても、評定の席では、諸説紛々、なにもきまらなかったことがわかる。
秀吉はそれに答えて、
「荒木村重という男は至極な正直者で、申さば、武勇に長けた馬鹿者でございますが、しかもこんな大馬鹿者とは思いませんでした」
と、いった。
自分の副将であり、私的には友人である村重の暴挙を言外に惜しんでいう真情が――そう罵倒する中に、却って深いものがあるように聞えた。
「いやいや」
信長は首を振って――
「馬鹿どころではあるまい。智に溺れて、信長の前途を危ぶみ、利に晦んで、毛利と通じた彼奴――小利口者のやりそうなことよ。村重は小智に迷うた者であろう」
「だから、馬鹿というしかございません。過分な恩遇を賜わりながら、何を不足に」
「謀叛するやつは、どう遇しても謀叛するように出来ておる。たとえば松永弾正のごときでも」
感情がむき出しかける。相手をさして彼奴というようなことばを、この人が用いたのは秀吉も初めて耳にするところである。信長の感情ではすでに謀叛人たる村重を、臣とも人とも認めたくないにちがいなかった。