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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
安土の城廓では、そこの色彩に消されてしまう秀吉の装いも、この簡素な一庵の中にあっては、その陣羽織といい具足といい、独り燦爛と見えて、ひどく厳めしい。
「…………」
半兵衛は身を低めたまま、後から縁を上がって来た。見れば、煤竹の一節を切った花入れに、一輪の白菊を挿けてささげている。静かに、秀吉の横へ坐って、菊の姿のくずれぬ程に、そっと床脇においた。
野にあっては、さほどでもない菊も、ここに置かれると、はからずも薫々と香のたかいことが知れる。――秀吉はひそかにこう察した。病褥は片づけても薬の香や寝臭いものが漂っているのを畏れて、焚香のかわりに取りあえず、この一花をもってそれを浄めたものであろうと。
「かまうな。気づかうな」
秀吉は、こう宥わって、
「半兵衛。……そのように起き出ても、大事はないのか」
と、案じ顔に見まもった。
半兵衛は、遠く退って、あらためて拝礼した。しかし慇懃のうちにも、主君の来訪をよろこぶ容子が面にあふれていた。
「御心配くださいますな。先頃からちと晩秋らしい寒さがつづきましたので、大事をとって、衾をかぶって籠っておりましたが、きょうあたりは暖こうござりますゆえ、起き出そうかと思うていたところでした」