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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

その頃、浜松、岡崎を通る旅人がきっということは、

「どこの辻も、がきだらけじゃないか。こんなに国中で子どもばかり生むから、ここの貧乏はいつまでも直りはしない」

と、いう評だった。

三河武士と貧乏とは、いかなる宿縁ぞや――などとよく若いさむらいは冗談に慨嘆するが、実際、今もってそれは救われていなかった。

今。天正三年。

三方ヶ原以後、わずかまる三年とも経たないうちに、その興隆ぶりを、同盟国の織田や、敵国の武田とくらべてみても、

(なるほど、これじゃあ……)

と、無理もないことを誰もうなずこう。

まず織田家の勃興ぶりを数字のうえで見ると、ここ足かけ三年間に、足利義昭を追い、浅井、朝倉を滅ぼして、急激にその領地を拡大している。

姉川の合戦――五年ほど前から見ると、約百六十万石を増加し、いまでは総領土四百万石を越える勢いであった。

武田家は、三年前の三方ヶ原以後、およそ十一万石の地を伐り取り、全土で百三十三万石の富強を擁している。

それにひきかえ徳川家は、ここ三年ほどのあいだに、八万石の減地を示していた。――それも領域の広いうちからならそう目立ちもしないが、差引わずか四十八万石しかない現状なので、これは全体の軍需や兵力にも、また朝夕手にもつ飯茶碗のなかにも、直接、影響せずにいなかった。