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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

と、秀吉は黄昏の空を仰いで暇を告げ出した。しかし信長は、陸路の危険もあるから帰りは船にのって夜をかけて帰れという。そしてその護衛は水軍の九鬼一族に命じよう。船とすれば間もあるから、一献してゆくがいいと離さない。

「では」

と、秀吉は腰をすえ直してから急に思い出したように云った。

「それがしへのお咎めは、もはやお宥し給わりましたものでしょうか」

信長は苦笑して、

「さあ、どうかの」

と、からかった。

「ゆるすと、おことばのないうちは、どうも御酒をいただいても、沁々喉をうまく通りませんが」

重ねていうと、初めて、信長も快然と声を放って、

「はははは。よしよし」

「然らば――」

と、秀吉はその図を待っていたように、

「官兵衛孝高にもお咎めはございませんか。彼の質子を首打てと、すでにお使いは立った由にござりますが」

「いや。黒田官兵衛の心はそちにも保証はなるまい。何で咎なしといえるか。質子の首を伊丹城中へ送りつけることは取止めぬぞ。軍律の上からも。――執りなしはならん」

高圧的に、信長は、彼の口を封じてしまった。

南蛮寺

秀吉はその夜、播州へ帰った。帰るに際して、京の南禅寺中にある竹中重治のところへ、そっと使いに一書を持たせてやった。