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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
その雑然たる音階は、罵るごとく、嘲るごとく、蔑むごとく、笑うごとく、一種不思議な交響を町中にひろげて行った。
「けだものが行く。けだものが送られて行く」
「けだもの囃子。けだもの囃子」
石を投げるもの、唾するもの、子どもまでが真似て、
「ひとでなしッ!」
と、さけぶ。
役人も止めないのである。もっとも止めたら、民衆はもっと激昂して抗争を捲き起すかもしれない。――こうして浜松中を曝されたあげく、さらに岡崎へ行って同じように城下を引き廻された。
さいごには、弥四郎の首に板をはめて、両足の筋を断り、城下の辻に生きながら首だけ出して埋められた。側には、竹鋸がおいてあるので、往来の旅人まで憎んでその首の根を挽いたという。
いかに不義を憎むにしても、ちと惨刑のようだが、大賀弥四郎もさいごまで太々しいところを見せている。彼のため、ことごとく斬刑に処された念志ヶ原の刑場を通ったとき、彼は馬の三頭からあたりを見まわして、
「みな先に行ったか。おれは殿軍とみえる。先とはめでたいものよ」
と、呟いていたという。
けだもの囃子がすむと、庶民はもう忘れたような顔していたが、家康は胸のうちで自分の不明を責めていたにちがいない。