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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

そうした光景に夜も更け初めたこの町へ。

ひょこりと、乞食のような姿をした男が、どこからか紛れこんで来た。

甲冑の武者を見ても、ぎらぎらした槍を見ても吠えない犬も、この男の影を見つけると、わんわん吠えついた。

「しッ、叱ッ……」

小石を投げながら、男の影は、逃げるように、岡崎城のほうへ駈けて行った。

濠の水と葉柳の並木が、もうそこに見えたとたんに、わらわらと駈け寄った武者たちの跫音が、

「こいつ、何処へ」

と、すぐ前後をつつみ、左右から跳びかかって、組み伏せていた。

何の抵抗もして来ない。

男は、ぺたんと大地に坐っている。そして、まわりの者を見まわしながら、

「ああ。あなた方は岐阜の御家中でございますな。援軍に……徳川勢の援軍に……これへ来ておいででございますか」

息づかいが困難らしい。非常な疲労を面にも言葉にもあらわしている。

警備の者は、それだけでも、充分に怪しんだ。ひとりが蹴とばさんばかりな身構えして云った。

「黙れッ。質すことは、此方にある。何だ貴様は。何処から来た?」

「長篠から参りました」

「なに。長篠から?」

「奥平貞昌の臣、鳥居強右衛門と申すものです。