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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

「…………」

勝家は、振向いて見る気もしないようだった。本丸へ来るとすぐ室へ入る前に、

「五左衛門と五兵衛とに、急いで、まいちど儂の部屋へ、参るように云ってこい」

と、小姓の一名へいいつけた。

小姓の姿は雪明りの大廊下を、光もののように寒々と走って行った。

加賀大聖寺の城主、拝郷五左衛門家嘉、石川郡松任の城主徳山五兵衛則秀、ふたりとも、柴田譜代の重臣だし、勝家が股肱の老職たちだった。

「昨夜来、熟議して、とりきめたことだが――前田への使いは、はや出してしもうたか」

勝家の言だった。

五左衛門がいう。

「御書面をもたせ、先刻、七尾へ向って急がせましたが」

それに云い足して、五兵衛則秀も、

「……何ぞ、お云い残しでも」

と、顔を窺った。

勝家はだまって頷いた。

しかし容易に、次の口は開かなかった。なお何か、思い惑うものの如く――

「使いは出たか」

「出ました……が?」

老職に、在城の一族も加え、昨夜来、熟議されたことは、かなり重大らしかった。

対秀吉との問題である。

肚はきまっている。受け身ではなく、積極的にだ。

で、ここ北ノ庄は、その予備工作に向って、八方画策の秘策を施しつつ冬に入ったのであった。